閣議決定が相次いでいる「内なる国際化」政策:高度外国籍人材とのイノベーション創出のために

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The Cabinet of Japan has approved “Internal Internationalization” Policies: Making Innovation Happen through the Interaction with International Talents.

 

東京経済大学グローバル組織・キャリア開発研究所の小山健太です。

私は、「日本企業で働く高度外国籍社員と日本人社員との相互学習」について研究しています。

私が「高度外国籍人材」や「高度外国籍社員」と表記するのは、「技能実習生ではない」という意図で、いわゆる「正社員」として働いている外国籍人材(および、その潜在的候補者としての留学生)を指すためです。
在留資格としては、「高度専門職」(「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度」によって認定されている高度外国籍人材)だけでなく、「技術・人文知識・国際業務」も含めて考えています。

さて、近年「内なる国際化」政策が次々と閣議決定されています。「内なる国際化」とは、日本国内での人材の国際化のことです。また、「内なる国際化」政策は外務省、厚生労働省、経済産業省、文部科学省など省庁を横断して取り組まれている国家プロジェクトです。最近では、経済産業省の広報サイト『METI  Journal』の2018年2月の政策特集で「内なる国際化」が取りあげられました。

私なりに、「内なる国際化」政策のポイントをまとめると次の通りです。

  • 「内なる国際化」政策の目的は、高度外国籍社員と日本人社員が切磋琢磨してイノベーションを創出することである(減少する日本の労働人口を補うことが主たる目的ではない)。
  • 「内なる国際化」政策の数値目標として主に設定されているのは、留学生数(留学生30万人計画)、および「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度」による認定人数である。
  • これまでの政策では、高度外国籍人材の量的増加に力点が置かれてきたが、現時点では数値目標の達成の見込みが高まっている。そうした状況のもと、「未来投資戦略2018」において、留学生へのキャリア教育や、企業側の受入れ環境の整備など、いわば質的な対応についても政策に盛り込まれるようになってきた。

それでは、「内なる国際化」政策について詳しく見ていきましょう。

(なお、昨今大きな話題になっている、技能実習、および技能実習の修了者を対象とした新しい在留資格については、高度外国籍人材についての政策とは別の目的を持ったものであると理解していますので、本稿では触れません。)


◆近年の「内なる国際化」政策の発端は、2008年の福田首相の国会での施政方針演説でしょう。

第169回国会における福田内閣総理大臣施政方針演説(2008年1月18日)から抜粋

〈第三 活力ある経済社会の構築〉(開かれた日本)

新たに日本への「留学生30万人計画」を策定し、実施に移すとともに、産学官連携による海外の優秀な人材の大学院・企業への受入れの拡大を進めます。

この福田首相の施政方針演説のあと、留学生および企業で働く外国籍人材を増加させる政策が次々と展開されていくことになります。


◆2008年7月には、高度外国籍人材の受入推進に資する必要な施策を検討することを目的として、内閣官房長官の下に「高度人材受入推進会議」が置かれました。そして、2009年5月に取りまとめられた報告書『外国高度人材受入政策の本格的展開を』の中で、高度外国籍人材について以下のように定義づけられました。

高度人材受入推進会議 『外国高度人材受入政策の本格的展開を(報告書)(2009年5月29日)

我が国が積極的に受け入れるべき高度人材とは、「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することが出来ない良質な人材」であり、「我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材」と定義付けることができる。(p4)

このなかで、私がとくに重要だと考えるのは、外国籍人材には日本人との「切磋琢磨」を通じて「イノベーション」をもたらすことが期待されているということです。つまり、高度外国籍人材は、減少する労働人口の穴埋めのための存在ではなく、イノベーションを生み出すきっかけをつくる人材としての役割が期待されているということなのです。


◆前述の報告書を受けて、2012年には、高度外国籍人材の国内流入増加を目的とした「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度」が始まりました(2012年5月7日導入)。この制度は、高度外国籍人材の活動内容を「高度学術研究活動」「高度専門・技術活動」「高度経営・管理活動」の3つに分類し、それぞれの特性に応じて「学歴」「職歴」「年収」などの項目ごとにポイントを設け、ポイントの合計が一定点数に達した場合に、出入国管理上の優遇措置を与えるというものです。

2017年12月時点で高度人材ポイント制の認定数(累計)は10,572人となっています(法務省入局管理局ホームページ)。


◆2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」では、前述した福田首相が2008年に国会の施政方針演説で述べた「留学生30万人計画」が明文化されました。

日本再興戦略(2013年6月14日閣議決定)

2.雇用制度改革・人材力の強化
⑦グローバル化等に対応する人材力の強化

優秀な外国人留学生についても、2012 年の 14 万人から 2020 年までに 30 万人に倍増させること(「留学生 30 万人計画」の実現)を目指す。
(p37から抜粋)

なお、2017年5月1日時点の留学生総数は26万7042人であり、前年比2万7755人増でした(日本学生支援機構「平成29年度外国人留学生在籍状況調査結果」)。仮に、このペースで増加が進むと2020年には30万人を超え、目標が達成されることになります。


◆2016年6月に閣議決定された「日本再興戦略2016」では、高度外国籍人材について2つのトピックスがありました。1点目は、前述した「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度」の認定件数(累計)について数値目標が設定されたことです。

日本再興戦略2016」(2016年6月2日閣議決定)

2.多面的アプローチによる人材の育成・確保等
2-3.多様な働き手の参画
(1)KPIの主な進捗状況

(高度外国人材の活用)
《KPI》「2017 年末までに 5,000 人の高度人材認定を目指す。さらに2020 年末までに 10,000 人の高度人材認定を目指す。」
⇒ポイント制の導入(2012 年5月)から 2015 年 12 月までに高度人材認定された外国人数は 4,347 人
(p203から抜粋)

前述した通り、高度人材認定数(累計)は2017年12月時点で1万人を超えており、2017年末までの目標(5000人)だけでなく、2020年末までの目標(1万人)も前倒しで達成されている状況です。

2点目は、高度外国籍人材の就職率の向上です。2014年度に卒業した留学生の日本国内での就職率は、大学(学部)の留学生で34.5%(3987人)、修士課程の留学生で32.1%(2545人)となっています。(日本学生支援機構(2016)「平成26年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」、p1)。日本再興戦略2016では、この数値を50%に向上させることが明記されました。

日本再興戦略2016」 (2016年6月2日閣議決定)

2.多面的アプローチによる人材の育成・確保等
2-3.多様な働き手の参画
(2)新たに講ずべき具体的施策
iv)外国人材の活用

② 外国人留学生、海外学生の本邦企業への就職支援強化
外国人留学生の日本国内での就職率を現状の3割から5割に向上させることを目指し、留学生に対する日本語教育、中長期インターンシップ、キャリア教育などを含めた特別プログラムを各大学が設置するための推進方策を速やかに策定し、また、企業との連携実績、インターンシップの実施計画等の観点に基づいた適切な認定等を受けた特別プログラムを修了した者については、プログラム所管省庁の適切な関与の下で、在留資格変更手続きの際に必要な提出書類の簡素化、申請に係る審査の迅速化等の優遇措置を講じた上、来年度より、各大学が同プログラムを策定することを支援する。
加えて、留学生関係団体と連携した普及広報の強化や外国人雇用サービスセンターにおけるインターンシップや就職啓発セミナー等の充実を通じて、関係省庁が連携し外国人留学生の日本国内での就職を推進する
(pp.207-208から抜粋)

なお、2018年2月に発表された2016年度に卒業した留学生の就職率は、大学(学部)の留学生で41.8%(4550人)、大学院(修士課程)の留学生で34.2%(3205人)であり、若干改善傾向となっています(日本学生支援機構(2018)「平成28年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」、p1)【※参考1、2】。

また、日本再興戦略2016の本文中に登場する「留学生に対する日本語教育、中長期インターンシップ、キャリア教育などを含めた特別プログラムを各大学が設置する」ことについては、「留学生就職促進プログラム」として2017年6月に12大学が選定されています(文部科学省ホームページ)。

【参考1】
日本学生支援機構が2015年に実施した私費留学生6,036 人のアンケート調査結果では、「卒業後に日本において就職希望」と回答した留学生は、学部正規課程に在籍する1806人のうち69.9%、大学院修士課程・博士前期課程に在籍する733人のうち67.7%となっています。(日本学生支援機構(2016)「平成27年度私費外国人留学生生活実態調査概要」、p48)。
このアンケート調査は留学生全員を対象とした調査ではないため、前述の「外国人留学生進路状況・学位授与状況調査」と単純に比較することはできませんが、大半の留学生が日本で就職したいという希望をもっていることが推測されます。

【参考2】
法務省入国管理局が発表しているデータでは、「留学」「特定活動(継続就職活動中の者,就職内定者等)」の在留資格から、我が国の企業等への就職を目的として行った在留資格変更の許可件数(延べ人数)がわかります。
2016年時点で、変更後の在留資格のうち最多は「技術・人文知識・国際業務」(89.3%)であり、在留資格を変更した留学生の最終学歴は大学(学部)が8944人、大学院(修士課程)が4418人となっています(法務省入国管理局(2017)「平成28年における留学生の日本企業等への就職状況について」、p17)。

なお、日本学生支援機構「外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」と法務省入国管理局「留学生の日本企業等への就職状況について」とで人数に違いがある理由として、次の2点が考えられます。

①日本学生支援機構データは各年度中(4月~3月)の数値であるのに対して、法務省入国管理局データは各年1月~12月の数値であること。
②日本学生支援機構データには省庁立の大学校や大学の研究生修了者のデータが含まれていないが、法務省入国管理局データでは「特定活動(継続就職活動中の者,就職内定者等)」の在留資格も対象となっていること(在籍学生だけではなく、卒業して就職活動を継続している者・入社を待っている者(就職内定者)も含まれていること。
(参考:米川英樹(2014)「外国人留学生の日本での就職状況と日本学生支援機構の役割」『大学時報』pp.40-45)

これらのことから、例えば9月に卒業した後に就職活動をして就職が決まった留学生については、日本学生支援機構データではカウントされないが、法務省入国管理局データでは算入されるため、法務省入国管理局データの方が大きい数字になると考えられます。


◆2017年に閣議決定された「未来投資戦略2017」では、「優秀な外国人材について、より積極的な受入れを図り、イノベーションを加速し、我が国経済全体の生産性を向上させることが重要である」と明記されました。

未来投資戦略2017」 (2017年6月9日閣議決定)

3.人材の育成・活用力の強化
(2)新たに講ずべき具体的施策
)外国人材の活用

第4次産業革命の下での熾烈なグローバル競争に打ち勝つためには、高度な知識・技能を有する研究者・技術者をはじめ、情報技術の進化・深化に伴い幅広い産業で需要が高まる優秀な外国人材について、より積極的な受入れを図り、イノベーションを加速し、我が国経済全体の生産性を向上させることが重要である。
このため、国際的な人材獲得競争が激化する中、起業家や高度外国人材の更なる受入れ拡大に向けた前向きなメッセージを積極的に発信するとともに、自国外での就労・起業を目指す高度外国人材にとって我が国の生活環境や本邦企業の賃金・雇用人事体系、入国・在留管理制度等が魅力的なものとなるよう、更なる改善を図り、これらの人材が長期にわたり我が国で活躍できる戦略的な仕組みを構築する。
(p98から抜粋)

したがって、高度外国籍人材との協働によるイノベーションの創出を目指していることが、ここでも明確にわかります。繰り返しになりますが、高度外国籍人材に期待されていることは、日本人労働人口の減少に対する単なる人数的な補強という目的ではないのです。


◆2018年に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、前述した「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度」の認定件数(累計)について、2020年末までの目標は達成済のため、2022年までの数値目標が追加で設定されました。また、留学生30万人の数値目標も引き続き掲載されました。

未来投資戦略2018」 (2018年6月15日閣議決定)

2.AI時代に対応した人材育成と最適活用
2-3.外国人材の活躍推進
(1)KPI の主な進捗状況

《KPI》2020 年末までに 10,000 人の高度外国人材の認定を目指す。さらに 2022 年末までに 20,000 人の高度外国人材の認定を目指す。
《KPI》2020 年までに外国人留学生の受入れを 14 万人から 30 万人に倍増(「留学生 30 万人計画」の実現)
(p112から抜粋)

また、新たに講ずべき具体的施策として、留学生の受入・キャリア教育・就職支援などの「一貫した対応」、さらに企業での高度外国籍人材の「受入れ環境の整備」についても掲載されました。

未来投資戦略2018」 (2018年6月15日閣議決定)

2.AI時代に対応した人材育成と最適活用
2-3.外国人材の活躍推進
(2)政策課題と施策の目標

第4次産業革命の下での国際的な人材獲得競争が激化する中、海外から高度な知識・技能を有する外国人材の積極的な受入れを図ることが重要である。特に、高度外国人材の「卵」である優秀な外国人留学生の国内就職率の向上に向け、外国人学生の呼び込みから就職に至るまで一貫した対応を行うとともに、留学生と産業界双方のニーズを踏まえた効果的なマッチングを図る。
また、中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきている。このため、設備投資、技術革新、働き方改革などによる生産性向上や国内人材の確保を引き続き強力に推進するとともに、従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある。
これらの取組に併せて、自国外での就労・起業を目指す外国人材にとって我が国の生活・就労環境や入国・在留管理制度等が魅力的となるよう、政府横断的に外国人の受入れ環境の整備を進めていく。
(p112)

未来投資戦略2018」 (2018年6月15日閣議決定)

2.AI時代に対応した人材育成と最適活用
2-3.外国人材の活躍推進
(3)新たに講ずべき具体的施策
 
)高度外国人材の受入れ促進
外国人留学生等の国内就職促進のための政府横断的な取組

ア)外国人留学生などの外国人材受入れ施策の有機的連携
・大学・企業・自治体等の連携の下、外国人留学生と中堅・中小企業双方の事情に精通する専門家の活用等を通じ、地域の中堅・中小企業のニーズを踏まえた専門教育や、ビジネス日本語・キャリア教育等日本企業への就職に際し求められるスキルを在学中から習得させるとともに、インターンシップ、マッチング事業等を通じて国内企業への就職につなげる仕組みを作る。また、留学生と企業とのマッチングの機会を設けるため、ハローワークの外国人雇用サービスセンター等の増設により、留学生と企業とのマッチングを推進する。
(p113から抜粋)

)外国人の受入れ環境の整備
就労環境の改善 

・高度外国人材の専門性の発揮や公正な評価・処遇につながる雇用管理改善の取組の指標となる好事例集の普及啓発を図り、魅力ある就労環境整備を促していく。
・外国人雇用管理アドバイザーや「新輸出大国コンソーシアム」の専門家による人事・労務管理等に関する相談対応を通じ、高度外国人材の雇用の改善を図る。
(p116から抜粋)


以上のように、「内なる国際化」政策の観点では、高度外国籍人材にはイノベーションの創出が期待されています。そのために、省庁横断的に国家プロジェクトとして様々な施策が展開されてきていることがわかります。

しかし、単に高度外国籍人材が日本企業に参画すればイノベーションが生じるわけではありません。日本企業が高度外国籍社員と共にいかにイノベーションを生み出すかという現場レベルでの取り組みが重要になります。とくに、明文化された職務記述書(job description)のない日本型組織においては、外国籍人材の活用ではより一層の工夫が必要となります。

私が研究に取り組んでいる理由は、そこにあります。高度外国籍社員と日本人社員の相互学習によるイノベーションの創出の成功要因を探究したいと考えています。

高度外国籍社員が増えているとはいえ、現時点では、大企業であっても1社あたりの在籍人数はまだ少ないという状況です。私が研究をしていると「ニッチな研究テーマだ」とご意見をいただくことも少なくありません。

しかし、高度外国籍社員が相対的に少人数の今だからこそ、一人ひとりに丁寧に対応することで、自社における「内なる国際化」の基盤をしっかりと構築することが重要だと私は考えています。せっかく高度外国籍社員が量的に増加傾向にあるのですから、これからはイノベーションの創出に向けた実践知を蓄積していくことが必要です。

今後のブログでは、日本企業におけるダイバーシティ・マネジメントや異文化マネジメントの課題と展望について述べていきたいと思います。

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